試合終盤、1点差。ここで7mスロー。

シューターがボールを構え、GKと目が合う。会場が静まる。笛が鳴り、3秒以内にすべてが決まる——ハンドボールで最も緊張する瞬間の一つです。

7mスローはサッカーのPKに相当するプレーで、得点チャンスを不正に阻止された攻撃側に与えられます。ルールはシンプルですが、シューターとGKの駆け引きは奥が深い。

この記事では、7mスローの基本ルールと、世界・日本の名手たちの技術を紹介します。

7mスローとは

ゴールから7m離れた7mラインから、GKと1対1でシュートを打つプレーです。フリースローとは違い、DFは妨害できません。シューターとGKの純粋な1対1の勝負です。

IHFルール第14条(Rule 14: The 7-Metre Throw)に規定されています。

7mスローが与えられる条件

以下の状況でレフェリーが7mスローを宣告します。

1. 明確な得点機会の不正な阻止

攻撃側の選手がシュートモーションに入った、またはゴールに向かって突破しようとしている場面で、守備側が不正なファウル(押す、掴む、突き飛ばす等)でチャンスを潰した場合。

ポイント:「明確な得点機会(clear chance of scoring)」が存在していたかどうかが判断基準。単なるファウルではフリースローですが、「これがなければ入っていた」レベルのファウルなら7mスローです。

2. ゴールエリアへの不正侵入(守備側)

守備側のコートプレーヤーが自チームのゴールエリア(6mライン内)に入ってシュートを防いだ場合。

3. 試合終了ブザー時のファウル

前後半の終了と同時に得点チャンスを不正に阻止した場合、ブザー後でも7mスローを実施します。残り1秒で7mスローが宣告される劇的な場面は、試合の結果を左右することも。

実施方法(Rule 14:4〜14:10)

シューターのルール

項目ルール
位置7mラインから後方1mまでの範囲(7〜8mの間)に立つ
時間制限レフェリーの笛から3秒以内にシュート
ラインクロスシュート前に7mラインを踏んだり越えたりしてはいけない
シュート後ラインを越えてゴールエリアに入ってもOK
再タッチ禁止ボールが相手選手かゴールに触れるまで、シューターもその味方も再びボールに触れられない
片足接地スロー中、片足の一部を常に床につけていなければならない

味方選手のルール

  • 9mライン(フリースローライン)の外側に位置する
  • シューターがボールを手から離すまでそこにとどまる
  • 違反した場合 → 相手チームのフリースロー

相手選手のルール

  • 9mラインの外側、かつ7mラインから3m以上離れる
  • シューターがボールを手から離すまでその位置にとどまる
  • 違反してかつ得点にならなかった場合 → やり直し(罰則は適用しない)

GKのルール

  • ゴールラインと**4mライン(GKライン)**の間で待機
  • シューターがボールを手から離す前に4mラインを越えて前に出てはいけない
  • 違反してかつ得点にならなかった場合 → やり直し(罰則は適用しない)
  • シューターが正しい位置に立ちスロー準備をした後は、GKの交代は認められない(違反した場合はスポーツマンシップに反する行為として罰則)

反則時の判定まとめ

ケース結果
シューターがラインを踏んだ/越えた相手チームのフリースロー
シューターが3秒以内に打てなかった相手チームのフリースロー
味方選手が9mライン内に入った相手チームのフリースロー
GKが4mラインを越えた(得点ならず)やり直し
相手選手が3m以内に入った(得点ならず)やり直し
GKがスロー準備後に交代しようとしたスポーツマンシップ違反で罰則

補足:7mスローを判定しないケース(Rule 14:2)

ファウルがあっても、攻撃側プレーヤーがボールと身体を完全にコントロールしている状態なら、7mスローを判定する必要はありません。逆に、ファウルによって明らかにコントロールを失い得点チャンスが消えた場合に7mスローが判定されます。

また、ファウルがあったにもかかわらず攻撃側が得点できた場合は、7mスローを判定する理由はありません(アドバンテージの概念)。

シューターとGKの駆け引き

7mスローは単なるシュートではありません。心理戦です。

シューター側の戦略

  • コース選択: 上下左右の隅を狙う
  • タイミングの変化: 早打ち or ギリギリまで待つ
  • フェイント: 目線、肩、手首でGKの重心を崩す

GK側の戦略

  • 先読み: 相手シューターの利き手や過去の傾向を分析
  • 反応型: ギリギリまで待ってシュートに反応する
  • 誘導型: わざと片側を空けて、そこに打たせてから止める

名手に学ぶ:リンベリ選手が決め続けられる理由

7mスローのうまさを具体的にイメージするなら、デンマークのハンス・リンベリ選手を見るとわかりやすいです。

リンベリ選手は右ウイングで、ドイツ・ブンデスリーガの通算得点トップ。通算3,100得点以上のうち約1,500得点が7mスロー。つまり、長いキャリアの中で**「GKと1対1で決める仕事」を任され続けてきた**選手です。

なぜ研究されても決められるのか

7mスローは相手GKに研究されます。何度も投げる選手ほど、得意コースも、構えの癖もフェイントの間も見られてしまう。それでも決め続けられるということは、「知られていても最後まで読ませない」技術があるということです。

リンベリ選手のポイント:

  • 準備動作が安定している — 構え、ステップイン、腕の振り出しが大きく変わらないのでGKが早い段階でコースを決めにくい
  • 最後の最後で変える — 手首とリリースのタイミングで強く打つ、浮かせる、GKが動いた逆を突く
  • 同じフォームから複数の選択肢 — GKからすると「先に動いたら負け、でも待ちすぎても間に合わない」

比較して見たい選手

選手タイプ
リンベリ選手(デンマーク)同じフォームから最後に変える
ゲンスハイマー選手(ドイツ)手首で球質を変える(スピン、ふわっと浮かせる)
エクベリ選手(スウェーデン)プレッシャー下でも手順を崩さない安定感

日本人選手で見るなら

日本人選手で7mスローのうまさを見るなら、第48回日本ハンドボールリーグの7mスロー得点ランキングが参考になります。

選手7m得点
佐藤陸選手56得点
稲毛隆人選手47得点
吉野樹選手42得点

何本も任されているということは、チームから「この1本を任せられる」と見られていた選手。得点数だけでなく、なぜ決められるのかを見ると面白いです。

見どころの切り口

フェイント(佐藤陸選手) — 目線を少し上に置く、肩を一瞬入れる、ステップインの最後でほんの少し間を作る。派手に体を振らなくても、GKは「上に来るかも」「今打つかも」と反応しかけます。ボールを投げる瞬間ではなく、その直前にGKの重心が動いているかを見てみてください。

球のスピードの「印象」(吉野樹選手) — 吉野選手は通常のフィールド得点も多いバックプレーヤー。普段の強いシュートの印象がGKの頭に残るので、GKは少し早く反応したくなる。そこに、あえてタイミングをずらしたシュートが入ると効きます。球速は「実際の速さ」だけでなく**「GKに速い球を意識させる力」**まで含めて見ると面白い。

リリースの見えづらさ(稲毛隆人選手) — 稲毛選手は左利きの右バック。右利きのシューターとは腕の出どころが逆になるので、最後の手首、リリースの高さ、ボールを離すタイミングが少し変わるだけで読みづらくなります。**「いつ・どこから出るかを最後まで隠せているから入る」**と見ると技術が立体的に見えてきます。

駆け引きの本質

7mスローは、シューターが先に決めたコースへ打つだけのプレーではありません。GKが動くのを待つのか、待たせてから逆を突くのか、早いタイミングで決め切るのか。

大事なのは毎回違うことをするよりも、同じ準備から違う答えを出せること。佐藤選手は再現性、稲毛選手は利き手とリリース、吉野選手は球威への警戒。そういう見方をすると、3人の7mスローはそれぞれ違うタイプのうまさとして見えてきます。

観戦時のポイント

7mスローを見るとき、ボールの速さよりも**「GKが先に動かされているか」**に注目してみてください。

名手は、ゴールの隅を狙っているだけではありません。目線、肩、手首、リリースの間でGKの重心を少しだけずらし、その小さなズレを作ってから空いたコースに置いている。ここが、初心者が見落としやすい7mスローの本当のおもしろさです。

まとめ

項目内容
発生条件明確な得点機会の不正阻止、ゴールエリア侵入等
距離ゴールから7m
制限時間笛から3秒以内
GKの制限4mラインを越えられない
核心GKを「先に動かす」技術

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参考文献