試合を観ていて、レフェリーが突然片手を高く上げるのを見たことはありませんか?
あれ何だろう? と思った人も多いはず。あの片手を掲げるジェスチャーこそが**「パッシブプレー予告シグナル」**(ハンドシグナル17番)です。攻撃側に「そろそろシュート打たないとボール取り上げるよ」と警告するサイン。
この記事では、パッシブプレーのルールを現行規則(IHF競技規則2022年7月施行改正)に基づいて解説します。観戦が一段深くなるし、プレーヤーなら試合中のパニックを防げる知識です。
パッシブプレーとは何か
パッシブプレーとは、ボールを保持しているチームが積極的にゴールを狙わず、時間を消費するようなプレーのこと。ハンドボールはスピーディーな展開が魅力のスポーツなので、意図的にテンポを落とす行為にはペナルティが科されます。
ルール上の根拠はRule 7:11〜7:12。攻撃側が「明確にシュートを狙う意図を見せない」とレフェリーが判断した場合、まず予告シグナルが提示されます。
要するに「ちゃんと攻めてね」というルールです。
予告シグナルが出される典型的な場面
レフェリーは以下のような状況を総合的に判断して予告シグナルを出します。具体的にどんな場面で出やすいか、3つのカテゴリで見てみましょう。
ボール運びの遅延
- 交代が完了するのを待って選手がコート中央で立ち止まっている
- フリースローやスローオフの実行をわざと遅らせる
- ボールを持ったまま立ち止まってドリブルを繰り返す
- 相手がプレスをかけていないのに自陣にボールを戻す
組み立て段階での遅延
- 全員が攻撃ポジションに着いた後に交代を行う
- パス回しを始めてから遅れて選手交代する
- ※ただし、速攻から切り替えた直後の交代は認められます
攻撃の停滞
- ゴールに向かう意図のないパス回しが続く
- 立ち止まったままボールを受ける、またはゴールから離れる方向に動く
- 1対1を仕掛けてもスペースを獲得できていない
- 組み立てからフィニッシュへのテンポアップが見られない
DFの好守も考慮される
ここで重要なのは、DF側が積極的に守備をしている場合、その影響も考慮されるということ。攻撃側が攻めあぐねているのがDFの好守によるものなら、レフェリーはその点も加味して判断します。
前に詰めるDFの記事で解説したようなアクティブなDFは、実はパッシブ判定を誘発する効果もあるのです。DFがパスコースを切り、前に出てプレッシャーをかける——これが攻撃側を追い込み、パッシブシグナルにつながることがあります。
2022年改正の最大の変更点:6パス→4パスへ
2022年7月の改正で、パッシブプレーに関する最も大きな変更が行われました。予告シグナル後に許されるパスの最大回数が「6回」から「4回」に削減されたのです。
Rule 7:12の改正によるもので、EHF(欧州ハンドボール連盟)も「ハンドボールをより速く、よりフェアにする」変更だと説明しています。2022年女子EHF EUROから正式適用され、以降すべての国際大会で採用されています。
4パスルールの具体的な内容
| ルール | 内容 |
|---|---|
| 基本 | 予告シグナル後、最大4回のパスでシュートまで持っていく |
| ブロックバック | DFにブロックされて攻撃側に戻ったボールもカウントされる |
| 追加パス | 4回目のパス後にフリースローやスローインが与えられた場合、追加で1回許される |
| リセット | シュートがゴールポストやGKに当たって攻撃側に戻った場合、カウントがリセットされる |
以前の6パスルールと比べて、攻撃側はより素早い判断を求められるようになりました。「とりあえずパスを回しながら考える」という余裕がなくなったわけです。シグナルが出た瞬間、攻撃側は「あと4回しかパスできない」というプレッシャーの中でフィニッシュに持ち込まなければなりません。
予告シグナルが解除される条件
一度出された予告シグナルは、基本的にその攻撃が終わるまで有効です。ただし、以下の2つの場合はシグナルが解除され、新たな組み立てが認められます。
- シュートがゴールまたはGKに当たって攻撃側に跳ね返った場合(スローインを含む)
- DF側の選手や役員がRule 16に基づく個人罰(段階罰)を受けた場合(警告・2分間退場・失格など)
※ 通常のファウル(フリースローのみ)ではリセットされない点に注意してください。リセットされるのはDF側に段階罰が科された場合だけです。
つまり、シュートを打ってGKに弾かれたらリセット。DF側が段階罰(警告や2分間退場など)を受けてもリセット。 これは攻撃側にとって重要な救済措置です。
注意点として、通常のファウル(フリースローのみ)ではリセットされません。あくまでDF側に**個人罰(段階罰)**が科された場合だけです。
逆に言えば、「シグナルが出てもまずシュートを打てば、カウントがリセットされてやり直せる」ということ。これを知っているかどうかで、シグナル後の行動が変わります。
パスとしてカウントされないケース
すべてのボール移動がパスとしてカウントされるわけではありません。以下は例外です:
- DF側のファウルによってパスがコントロールできなかった場合
- DF側にブロックされてサイドラインやゴールラインの外に出た場合
- シュートが相手にブロックされた場合(シュート試行として扱われる)
これらの区別は審判にとっても難しいポイントで、試合中に議論になることもあります。
なぜこのルールが存在するのか
パッシブプレールールの目的は明確です。**「魅力のないプレーと意図的な遅延を防ぐ」**こと。
特に以下のような場面でパッシブプレーが起きやすいです:
- 試合終盤でリードしているチームが時間を使おうとする
- 退場者が出て数的不利のチームが守りに入る
- 相手のDFが強力で攻めあぐねる
歴史を振り返ると、1990年代にパッシブプレーの判定基準が初めて体系化され、2001年に予告シグナルが正式導入されました。2005年に6パスルールが導入され、そして2022年に4パスへと厳格化。IHFが一貫して「攻撃的でスピーディーなハンドボール」を目指していることがわかります。
観戦時のポイント
レフェリーが片手を上げたら、そこからカウントダウンが始まります。「1、2、3、4…」とパスを数えてみてください。4回以内にシュートが打たれなければフリースローで攻守交代です。
攻撃側がシュートを打ってGKに弾かれた場合はカウントリセット。ここから再び組み立てが許されます。この駆け引きを知っていると、試合の緊張感がぐっと増すはずです。
現代ハンドボールでは、パッシブプレーの判定がより厳しくなったことで、攻撃のテンポが格段に上がりました。4パスという制限は、選手たちに「迷ったら打て」というメッセージを送っている。結果として、観る側にとってもよりエキサイティングな試合展開が生まれています。
まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| パッシブプレーとは | ゴールを狙う意図を見せない時間消費プレー |
| 予告シグナル | レフェリーが片手を高く上げる(ハンドシグナル17番) |
| パス制限 | シグナル後最大4回(2022年改正前は6回) |
| 解除条件 | シュートがGK/ポストに当たって戻る or DF側が段階罰(警告・2分間退場等)を受ける |
| 違反時 | フリースローで攻守交代 |
次にハンドボールの試合を観るとき、レフェリーの手が上がったら「あ、パッシブだ」とわかるはず。そこからパスを4つ数えてみてください。攻撃側の焦りとDFの追い込み——その駆け引きが見えてくると、ハンドボールがもっと面白くなります。
関連記事
- 前に詰めるDFの間合いと前進タイミング — パッシブを誘発するDF技術
- 7人攻撃(エンプティゴール)の基本と判断基準 — パッシブ回避の選択肢
- 6-0DFの基本原則 — 守備の基本形
参考文献
- IHF Rules of the Game 2022年版(2022年7月施行改正)Rule 7:11-12. https://www.ihf.info/
- EHF “Three major changes to IHF Rules of the Game in place for EHF EURO 2022”(2022年10月27日). https://www.ehf.eu/
- EHF “Rule changes make handball faster and fairer”(2022年5月20日). https://www.ehf.eu/