ハンドボールのDFで「押し出し」や「ステアリング」という言葉を聞いたことがありますか?

試合を見ていると、ディフェンダーが攻撃選手の進路を体で塞いだり、腕を使って相手を誘導したりする場面がある。「あれってファウルじゃないの?」と思った人も多いはず。

実は、IHFの競技規則(ルール8:1)では、一定の条件を満たせばこうした身体接触は完全に合法とされています。

この記事では、ステアリング(押し出し)の正しい使い方と、反則との境界線を解説します。DF力を一段上げたい選手、そして「なぜ今のはファウルじゃないの?」と疑問に思ったことがある観戦者にも役立つ内容です。

ステアリングとは何か

ステアリング(steering)とは、ディフェンダーが自分の体や曲げた腕を使って、攻撃選手の移動方向をコントロールする技術のこと。日本語では「押し出し」「誘導」とも呼ばれます。

車のハンドル(ステアリング)を切るように、相手の進路を自分の望む方向へ「操縦」するイメージです。

具体的には、攻撃選手がゴール方向へ切り込もうとしたとき、ディフェンダーが体を寄せて外側へ追いやったり、曲げた腕で相手の胴体に触れながら移動方向を制限したりする動作を指します。

IHFルール8:1 — 合法な身体接触の3条件

IHF競技規則2022年版のルール8:1には、ディフェンダーに許可された行為が3つ明記されています。

条件許可されている行為
(a)オープンハンドで相手の手からボールをはじき出すこと
(b)曲げた腕(bent arms)で相手に身体接触し、相手を監視・追従すること
(c)体幹(trunk)を使って、ポジション争いの中で相手をブロックすること

ステアリングは主に**(b)と(c)**に該当します。つまり「曲げた腕で相手に触れながら追従する」「体幹でポジションを塞ぐ」という2つの動作が、ルール上明確に認められているのです。

合法と反則の境界線

ただし、何でも許されるわけではありません。ルール8:1のコメント欄には重要な補足があります。

「ブロックとは、相手がオープンスペースへ移動するのを妨げることである。ブロックの設定・維持・解除は、原則として相手に対して**受動的(passive)**に行わなければならない」

キーワードは**「受動的(passive)か能動的(active)か」**です。

合法な動作

動作なぜ合法か
曲げた腕で相手の胴体に触れ、移動方向を制限するルール8:1(b)
体幹を使って相手の進路に立ちはだかるルール8:1(c)
正面または横からの接触受動的なポジション維持
相手の動きに合わせて受動的にポジションを維持する追従(monitoring)
相手がプレーを続けられる程度の接触プレー継続を妨げていない

反則になる動作(ルール8:2)

動作なぜ反則か
腕や手で相手を掴む、引っ張る能動的な力の行使
相手を押しのける、突き飛ばす能動的な力の行使
背後からの接触ルール8:3で重い罰則の対象
肘を危険に使う危険行為
相手のユニフォームを掴む拘束
相手に走り込む、飛びかかる能動的な力の行使

自分の体を壁のように使って相手の進路を塞ぐのは受動的で合法。相手を腕で押し返したり、突き飛ばしたりするのは能動的で反則。 この違いを理解することが、ステアリング技術の核心です。

実践テクニック:5つのポイント

1. 正面のポジションを取る

ステアリングの大前提は、相手の正面または斜め前に位置すること。背後からの接触はルール8:3の判定基準で重い罰則の対象になります。常に相手と向き合い、胸を相手に向けた姿勢を保ちましょう。

2. 腕は「曲げた状態」をキープ

ルール8:1(b)が許可しているのは「bent arms(曲げた腕)」での接触です。腕を伸ばして相手を押すと、能動的な力の行使と判断されやすい。肘を90度程度に曲げ、前腕を相手の胴体に軽く添える形が理想です。

3. 接触部位は胴体(トランク)

相手の腕、脚、頭部への接触は反則リスクが高い。特にシュートアーム(利き腕)への接触はルール8:4dで即座に2分間退場の対象になりえます。接触は相手の胴体(肩から腰まで)に限定しましょう。

4. 「壁になる」意識で動く

効果的なステアリングは、相手を「押す」のではなく、相手の行きたい方向に「壁を作る」感覚です。相手が右に切り込もうとしたら、右側に体を寄せてスペースを消す。相手は壁を避けて外側に流れざるを得なくなる。これが受動的なブロックの本質です。

6-0DFでのポジショニングも、本質は同じ。「壁を作ってスペースを消す」のがゾーンDFの基本であり、ステアリングはその個人技術版です。

5. フットワークで先回りする

体の接触だけに頼ると、どうしても「押す」動作になりがちです。足を使って相手より先にポジションを取ることで、自然と体幹ブロックが成立します。サイドステップやクロスステップを駆使して、常に相手の半歩先にいることを意識しましょう。

5-1DFの前衛4-2DFの前衛2枚が機能するのも、このフットワーク+ステアリングの組み合わせがあるからです。

試合での活用シーン

シーン1:バックプレーヤーの突破阻止

相手のレフトバックが右方向へドリブル突破を仕掛けてきた場面。ディフェンダーは正面に立ち、曲げた左腕を相手の右脇腹あたりに添えながら、体幹で進路を塞ぐ。相手は外側へ流され、シュート角度が悪くなる。

シーン2:ピボットのポジション争い

6mライン付近でピボットが有利なポジションを取ろうとする場面。ディフェンダーは体幹を使ってピボットの進路を塞ぎ、ゴール正面から外側へ追いやる。ルール8:1(c)の「ポジション争いにおける体幹ブロック」そのものです。

プルプレーで解説したピボットの「消える動き」に対しては、このステアリングが守備側の「回答」になります。

シーン3:速攻の遅延

相手の速攻に対して、ディフェンダーが戻りながら攻撃選手の横に並走し、曲げた腕で軽く接触しながら外側へ誘導する。直接的に止めるのではなく、シュートコースを悪くさせることで味方の戻りを待つ時間を稼ぐ。

レフェリーの判定基準(ルール8:3)

レフェリーがステアリングを反則と判定するかどうかは、4つの基準で決まります。

基準内容合法の目安
(a) 位置正面か、横からか、背後からか正面〜横なら合法
(b) 部位胴体か、シュートアームか、脚か、頭部か胴体なら合法
(c) 強度身体接触の激しさ軽い接触なら合法
(d) 結果相手のプレー継続への影響プレーが続けられれば合法

つまり、正面から・胴体に・軽い力で・相手がプレーを続けられる程度の接触であれば、レフェリーは合法と判断する可能性が高い。逆に、背後から・シュートアームに・強い力で・相手のプレーを完全に止めてしまう接触は、確実に反則を取られます。

よくある失敗パターン

失敗原因ルール上の扱い
腕を伸ばしてしまう焦って「押す」動作になる能動的な力の行使→フリースロー
掴んでしまう接触を維持しようとして無意識にルール8:2(c)→フリースロー+警告
背後から接触する相手に抜かれた後に追いかけてルール8:3(a)→2分間退場の可能性
力が強すぎる「壁」のつもりが「押し返し」に相手がバランスを崩す→フリースロー

DFスイッチの声かけの記事で「退場リスクを把握する」重要性を触れましたが、ステアリングの技術はまさに「退場せずに守る」ための技術です。

練習メニュー

メニュー1:1対1スライドドリル(10分)

やり方:

  1. 攻撃側が左右にフェイントをかけながら前進する
  2. DF側は曲げた腕を相手の胴体に添えたまま、フットワークで対応する
  3. 最初はゆっくり、慣れたらスピードを上げる

ポイント: 「押さない、ついていく」。腕の力で制御するのではなく、足で先回りする意識。

メニュー2:ミラードリル(10分)

やり方:

  1. 2人1組で向かい合い、攻撃側の動きをDF側が鏡のように追従する
  2. 身体接触なしで始め、慣れたら曲げた腕での軽い接触を加える
  3. 攻撃側は「触られている感覚はあるが、プレーは続けられる」強さが適正

狙い: 相手の動きを「読む」力と「先回りする」フットワークを身につける

メニュー3:3対3ステアリング限定(15分)

やり方:

  1. セットオフェンスに対して、DF側はステアリングのみで対応する(掴む・押すは禁止)
  2. レフェリー役を1人置いて、反則かどうかをその場でジャッジしてもらう
  3. 反則を取られたらDFの負け。30秒間反則なしで守り切ったらDFの勝ち

狙い: 「合法の範囲内で守り切る」感覚を実戦で磨く

まとめ

ステアリングは、ハンドボールのDFにおいて最も基本的かつ重要な技術の一つです。

核心:「押す」のではなく「壁になる」

IHFルール8:1で明確に許可されている「曲げた腕での接触・追従」と「体幹によるポジションブロック」を正しく理解し、受動的な姿勢を保つことが合法プレーの鍵になります。

5つのポイント:

  1. 正面のポジションを取る
  2. 腕は曲げた状態をキープ
  3. 接触部位は胴体に限定
  4. 「壁になる」意識で動く
  5. フットワークで先回りする

この意識の転換ができれば、ファウルを取られることなく、相手の攻撃を効果的に制限できるようになります。ステアリングを磨けば、チームDFの質が確実に上がるはずです。


もっとハンドボールを楽しむために

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参考文献