ハンドボールの試合で、攻撃側がなかなかシュートを打たずにパスを回し続けていると、レフェリーが片手を高く上げるシーンを見たことはありませんか? あれが「パッシブプレー(消極的プレー)」の予告シグナルです。
このシグナルが出た瞬間から、攻撃側は最大4回のパスでシュートを完結させなければなりません。失敗すれば攻撃権を失い、相手のフリースローで再開されます。
「たった4回のパスで点を取れ」と言われると焦りますよね。でも、事前に準備しておけば4パスは十分な回数です。この記事では、パッシブプレーのルールを正しく理解し、警告後の対応戦術と、そもそも警告を出させない攻撃の組み立て方を解説します。
パッシブプレーのルール — 2022年改正のポイント
IHF Rules of the Game(Rule 7:11-12)では、パッシブプレーについて以下のように定められています。
基本ルール
- レフェリーが攻撃側に「得点を狙う意思がない」と判断すると、**予告シグナル(片手を上げる)**を出す
- 予告シグナル後、攻撃側は最大4回のパスでシュートを完結させなければならない
- 4パス以内にシュートしなければ、相手チームのフリースローで再開(攻撃権喪失)
- 予告シグナルのタイミングはレフェリーの裁量だが、攻撃開始から45〜50秒経過が一つの目安
2022年改正の重要変更点
2022年7月施行のIHFルール改正で、パッシブプレーに関する大きな変更がありました。
6パス → 4パスへの削減
2005年に導入された「6パスルール」が、2022年の改正で4パスに変更されました。これにより攻撃側はより早い判断とシュートが求められるようになっています。
ディフェンダーに当たって戻ったボールもカウント対象
2022年改正では、ディフェンダーにブロックされて攻撃側に戻ったボールもパス回数にカウントされるようになりました。つまり「DFに当てて跳ね返りを拾えばリセット」という旧来の抜け道は使えません。
パスカウントのルール
何がパスとしてカウントされ、何がされないのかを正確に把握しておくことが重要です。
カウントされる:
- 味方間の意図的なパス交換
- ディフェンダーにブロックされて攻撃側に戻ったボール(2022年改正)
カウントがリセットされる:
- シュートがゴールポストやGKに当たって跳ね返り、攻撃側が再びボールを保持した場合
フリースロー/スローイン/GKスローが与えられた場合(重要):
- フリースロー、スローイン、GKスローが攻撃側に与えられても、パスカウントはリセットされない
- ただし、4パス目の後にこれらのスロー(フリースロー/スローイン/GKスロー)で再開された場合は、追加で1パスだけ許される
- 7mスローが与えられた場合は、パッシブプレーの予告シグナル自体が解除される
💡 筆者補足:GKスローが4パス目の後に発生する場面は実戦ではほぼ考えにくいですが、IHFルール文書では正式なスロー(formal throw)として網羅的に含まれています。試合で意識すべきは主にフリースローとスローインの場面です。
カウントされない(パスに含まれない):
- ドリブル(ボール保持者が自分でドリブルする行為)
- シュート動作そのもの
予告シグナル後の対応戦術 — 4パスで決める3つの方法
予告シグナルが出てからは、4パス以内にシュートを完結させなければなりません。1パス=1〜2秒として、残り時間は約6〜10秒。この短い時間で確実に得点するための戦術を3つ紹介します。
戦術1:エースの1対1(最も再現性が高い)
CB(センターバック)またはバックプレーヤーに、チームで最も1対1に強い選手を配置します。
手順:
- 予告シグナル確認(1パス目):ボールをエースのいるサイドへ展開
- 2パス目:エースにボールを渡す
- エースが1対1で仕掛ける → シュート or ファウル獲得(7mスロー)
ポイント:
- 残り2〜3パスの段階でエースにボールを集める
- エースは「シュートを打つ」か「DFに突っ込んでファウルをもらう」の二択で判断
- 7mスローを獲得できれば、パッシブプレーの予告シグナル自体が解除される(カウントリセットではなく、判定そのものが取り消し)
- CBの視点では、エースにボールを渡す前に自分がDFを引きつけて(フィクシング)、エースの1対1を有利にする意識が重要
戦術2:ピボット入れ替わり(マークのズレを突く)
ピボットがCBの位置に上がり、CBが6mラインに入る「逆配置」を作ることで、相手DFのマークズレを誘発します。
手順:
- 予告シグナル確認(1パス目):ピボットが外に出る動きを開始
- 2パス目:CBが6mに飛び込む or ピボットが外でボールを受ける
- 3パス目:マークがずれた方にラストパス → シュート
ポイント:
- 3パス目あたりで仕掛けると、相手の対応が間に合わない
- ピボットが外に出ることでDFが混乱し、CBが6m付近でフリーになりやすい
- ピボットの視点では、外に出るタイミングでバックプレーヤーに「今出る」と声で合図を送ることが重要
- 事前にサインプレーとして練習しておくと、予告シグナル後に迷わず実行できる
戦術3:サイドへの早い展開(DFが中央に寄っている時)
逆サイドのウイングまでボールを素早く動かし、サイドシュート or バックドアカットで終わらせます。
手順:
- 予告シグナル確認(1パス目):中央から逆サイドのバックプレーヤーへ
- 2パス目:バックプレーヤーからウイングへ
- ウイングがサイドシュート or 3パス目でピボットへ落とし → シュート
ポイント:
- 相手DFが中央に寄っている(6-0の密集型)ケースで特に有効
- ウイングの視点では、パスを受ける前からGKの位置を確認し、ニアサイド・ファーサイドどちらを狙うか決めておく
- 4パスしかないので、パスの精度とスピードが命。横パスではなく斜め前方への対角パスを意識する
シュート選択の判断基準
4パスという制限の中で、「打つか・もう1パス回すか」の判断基準を明確にしておきましょう。
| 残りパス数 | 判断基準 |
|---|---|
| 残り3パス | まだ余裕あり。良い形を作ることを優先 |
| 残り2パス | 成功率40%以上のシュートチャンスがあれば打つ(リバウンド狙い含む) |
| 残り1パス | 確実なシュートか、DFに突っ込んでファウル獲得を狙う |
| 残り0パス | 何が何でもシュートを放つ。打たなければ攻撃権喪失 |
警告を出させない攻撃テンポの作り方
パッシブプレーの予告シグナルが出てから対応するのは、いわば「後手」の戦い。本当に大事なのは、そもそも予告シグナルを出させない攻撃テンポを維持することです。
時間管理の目安
レフェリーがパッシブプレーを判断する基準は「攻撃意思の有無」です。以下の時間管理を意識しましょう。
- 0〜15秒:速攻 or 2次速攻のチャンスを探る
- 15〜30秒:セットオフェンスで崩しにかかる。この間に1回はシュートを試みる
- 30〜40秒:まだシュートを打っていなければ、積極的に仕掛ける
- 40秒以降:予告シグナルが出る危険ゾーン。即座にシュートへ
「攻撃意思」を示す4つのアクション
レフェリーは以下の行動を「攻撃意思あり」と判断します。逆に言えば、これらがない状態が続くと予告シグナルが出ます。
- ゴール方向へのドリブル突破:CBが9mラインに向かってドリブルで仕掛ける
- シュートフェイク:実際に打たなくても、シュートモーションを見せる
- ピボットへのパス:6mライン付近へのインサイドパスは「攻撃意思」の明確なサイン
- 1対1の仕掛け:DFに対して突破を試みる動き
CBの役割が特に重要です。 10秒に1回は上記のいずれかのアクションを起こすことで、レフェリーに「この攻撃は積極的だ」と認識させることができます。
チーム全体での時間共有
パッシブプレー対策で最も大切なのは、チーム全員が攻撃の経過時間を共有することです。
- ベンチからの声かけ:「30秒!」「シュート行こう!」を明確に発信
- CBの判断:攻撃のテンポが落ちていると感じたら、自ら仕掛けてリズムを変える
- 交代戦術:20秒経過してもチャンスが作れない場合、エースを投入して局面を変える
ポジション別の意識 — パッシブプレー局面で何を考えるか
センターバック(CB)
パッシブプレー対策の「司令塔」です。
- 予告シグナルが出た瞬間に、戦術1〜3のどれを使うか即座に判断する
- 味方に声で「残り○パス!」とカウントを伝える
- 自分が仕掛けてDFを引きつけ、味方のシュートチャンスを作る
- 普段から10秒に1回は前方への仕掛けを意識し、予告シグナルを出させない
バックプレーヤー(LB / RB)
エースとしてフィニッシュを任されることが多いポジションです。
- 予告シグナル後は「自分がシュートを打つ」意識を強く持つ
- DFとの距離を測り、ロングシュートか突破かを瞬時に判断
- 残り1パスの段階でボールが来たら、迷わずシュートかファウル獲得に行く
ウイング(LW / RW)
サイドへの展開で最後のフィニッシャーになる場面があります。
- 予告シグナル後もサイドライン際のポジションを維持し、パスコースを確保
- ボールが来たら即シュート。GKの位置は受ける前に確認しておく
- 角度がない場合は無理に打たず、ピボットへの落としも選択肢に
ピボット
入れ替わり戦術やラストパスの受け手として重要な役割を担います。
- 予告シグナル後は、DFの間でより積極的にボールを要求する
- バックプレーヤーからのパスに備え、常にシュート体勢を作っておく
- スクリーンを使って味方のシュートコースを空ける動きも有効
ゴールキーパー(GK)
直接的な関与は少ないですが、攻撃テンポに影響を与えます。
- セーブ後のGKスローを素早く出し、速攻のチャンスを作る
- 速攻が成功すればセットオフェンスの時間を使わずに済み、パッシブプレーのリスクが減る
練習メニュー — 4パスで決める判断力を鍛える
メニュー1:4パスシュートドリル(15分 × 2セット)
やり方:
- 6対6のセットオフェンス練習中、コーチが任意のタイミングで笛を吹く
- 笛が鳴った瞬間から、攻撃側は4パス以内にシュートまで到達する
- 成功(シュートを打てた)/ 失敗(4パスを超えた)を記録
狙い: 試合と同じプレッシャー下で、戦術1〜3のどれを選ぶかを瞬時に決める判断力を養う
メニュー2:タイムプレッシャー攻撃(10分 × 3セット)
やり方:
- 攻撃側は30秒以内にシュートを打つ(予告シグナルを出させない練習)
- 30秒以内にシュートを打てなかった場合、攻撃権を失う
- 慣れてきたら25秒、20秒と短縮していく
狙い: 攻撃テンポの感覚を体に染み込ませる
メニュー3:サインプレー確認(5分)
やり方:
- 予告シグナル後に使う3つの戦術を、それぞれ番号(1・2・3)で呼ぶ
- CBが「2番!」と叫んだら、全員がピボット入れ替わりの動きを開始
- 各戦術を2〜3回ずつ確認して終了
狙い: 試合中に迷わず実行できるよう、共通言語を作る
まとめ
パッシブプレー対策は「警告を出させない攻撃テンポ」と「警告後の4パス内攻撃完結」の二段構えです。
2022年のルール改正で6パスから4パスに削減されたことで、攻撃側にはより早い判断が求められるようになりました。しかし、事前に戦術を準備し、チーム全員が時間とパス回数を共有していれば、4パスは十分に得点できる回数です。
大切なのは以下の3点です:
- 45秒以内に1回はシュートを試みる(予告シグナルを出させない)
- 予告シグナル後の戦術を3パターン用意しておく(エース1対1・ピボット入れ替わり・サイド展開)
- チーム全員で時間とパス回数を声で共有する(「残り2パス!」)
これらを練習で繰り返し確認し、試合で迷いなく実行できる状態を作りましょう。
参考文献
- IHF Rules of the Game(2022年版、Rule 7:11-12 Passive Play), International Handball Federation. https://www.ihf.info/
- IHF Clarification on Passive Play(追加解釈文書). https://www.ihf.info/
- EHF Activities Members Area(指導者向け技術文書), European Handball Federation. https://members.ehf.eu/
- 日本ハンドボール協会 公式サイト. https://www.handball.jp/