チーム成績と個人成績は、必ずしも一致しません。

リーグH男子の得点ランキング上位3人を見ると、面白いことに気づきます。1位の選手のチームは12位、3位の選手のチームは10位。**「弱小チームの絶対エース」**が、リーグの得点王争いを繰り広げているのです。

しかも3人とも20代前半。2028年ロサンゼルス五輪(以下、LA五輪)を目指す世代——いわゆる**「ロス五輪世代」**の主役候補たちです。

ここまでのシリーズでは2強の戦術佐賀の下克上など、チーム単位の話が中心でした。今回は視点を変えて、「個」のドラマにスポットを当てます。

「ロス五輪世代」とは

2028年のロサンゼルス五輪に向けて、日本ハンドボール界が育成を強化している世代のことです。現在22〜26歳前後の選手たちが中心で、2026年時点ではリーグHで経験を積みながら、代表入りを目指しています。

今回紹介する3人は、いずれもこの世代に属する選手。彼らが4年後のLA五輪で日本代表のユニフォームを着ている可能性は、決して低くありません。

野尻雄偉(琉球コラソン) — 関東2部からの叩き上げが見た景色

プロフィール

項目内容
名前野尻雄偉(のじり ゆうい)
年齢22歳
出身神奈川県
ポジションLB(レフトバック)
背番号#2
所属琉球コラソン
経歴共和中→湘南工科大附属高→関東学院大→渡辺組(JHL2部)→琉球コラソン

異色のキャリア

野尻選手のキャリアは、エリート街道とは無縁です。

関東学院大学時代は関東2部リーグでプレー。1部ではなく2部です。しかし、そこで春秋4季連続得点王という圧倒的な結果を残しました。「リーグのレベルが低いから」ではなく、「どんな環境でも突き抜ける」才能の証明です。

大学卒業後はJHL2部の渡辺組を経て、琉球コラソンへ。リーグH1年目(2024-25シーズン)でいきなり217得点のリーグ2位、最優秀新人賞を獲得。「2部出身の選手がトップリーグで通用するのか」という疑問を、数字で完全に吹き飛ばしました。

2025-26シーズン:得点王争いの首位

スタッツ数値リーグ順位
得点(5/10時点)194点1位

2年目の今シーズンは、さらに進化。5月10日時点で得点ランキング1位に立っています。

沖縄タイムスの評によれば、「天性の素早さに加えて入団後に押し負けない体にビルドアップ」。つまり、もともと持っていたスピードに、プロ入り後のフィジカル強化が加わったということ。1対1の突破力に加え、コンタクト(体のぶつかり合い)でも負けなくなった。

代表への道

2025年5月にはネクスト日本代表(次世代代表)強化合宿に招集されています。代表スタッフの目にも留まっている証拠です。

チームは12位、しかし——

琉球コラソンの成績は5勝1分18敗の12位。チームとしては苦しいシーズンです。

しかし、その中で194得点を叩き出しているということは、チームの攻撃のほぼすべてが野尻選手を経由していることを意味します。相手チームは「野尻を止めれば琉球を止められる」とわかっていて、それでも止められない。これが「孤高のシューター」の凄みです。

プレーオフには届かないチーム順位ですが、野尻選手の名前はリーグ関係者全員が知っています。来シーズン以降、上位チームからのオファーがあっても不思議ではありません。

藤川翔大(レガロッソ宮城) — プレーオフ進出を左右するエースシューター

プロフィール

項目内容
名前藤川翔大(ふじかわ しょうた)
ポジションLB(レフトバック)
背番号#15
所属トヨタ自動車東日本レガロッソ宮城

得点ランキング2位の実力

スタッツ数値リーグ順位
得点(5/10時点)192点2位
7mスロー得点42本2位

野尻選手とわずか2点差の192得点でランキング2位。さらに7mスロー(ペナルティスロー)得点42本はリーグ2位。セットプレーのキッカーとしても高い信頼を得ています。

チームの命運を握る存在

野尻選手との最大の違いは、チームがプレーオフボーダー上にいること。レガロッソ宮城は6位で、プレーオフ進出の正念場を迎えています。

つまり、藤川選手の得点力は「個人記録」ではなく「チームの勝敗」に直結している。1試合で藤川選手が5点取るか8点取るかで、チームの勝ち負けが変わる。そのプレッシャーの中で192得点を積み上げているのは、メンタルの強さの証明でもあります。

高精度シューターの価値

LB(レフトバック)は左サイドの後衛から攻めるポジション。右利きの選手がこのポジションに入ると、左サイドからゴール右隅を狙いやすい角度が生まれます。藤川選手はまさにその利点を最大限に活かし、高いシュート成功率を維持しています。

この「右腕の精度」が、チームのプレーオフ進出を左右する——そう言っても過言ではないでしょう。

山﨑洸平(安芸高田わくなが) — 全カテゴリ上位の万能型

プロフィール

項目内容
名前山﨑洸平(やまさき こうへい)
ポジションLB(レフトバック)
背番号#4
所属安芸高田わくながハンドボールクラブ

全カテゴリで上位に顔を出す万能性

スタッツ数値リーグ順位
得点124点3位
フィールド得点102点1位
シュート率.5807位
7mスロー得点22本9位

山﨑選手の特徴は、一つの数字が突出しているのではなく、すべてのカテゴリで上位に入る万能性です。

特に注目すべきはフィールド得点1位(102点)。フィールド得点とは、7mスローを除いた「流れの中での得点」のこと。つまり、セットオフェンスや速攻など、チームプレーの中で最も多くゴールを決めている選手が山﨑選手なのです。

シュート率.580(7位)も優秀。「たくさん打って、たくさん決める」のではなく、「打つべき場面で打ち、高確率で決める」タイプ。これは前回の記事で紹介した刈谷のアンドレ・ゴメス選手(.707)と同じ哲学です。

広島の地方クラブを支える「孤高のシューター」

安芸高田わくながハンドボールクラブは、広島県安芸高田市を本拠地とする地方クラブ。チーム順位は10位と、上位進出には届いていません。

しかし、山﨑選手の個人スタッツは全カテゴリで上位。チームの勝敗に関わらず、個人として圧倒的なパフォーマンスを維持し続けている。これは「環境に左右されない実力」の証明であり、代表選考においても大きなアピールポイントになるはずです。

3人の共通項 — ロス五輪への道

この3人に共通するのは、以下の3点です。

① 全員がLB(レフトバック)

偶然にも、得点ランキング上位3人は全員がLBです。LBはチームの攻撃の中心を担うポジションで、得点力・パス能力・1対1の突破力が求められます。日本代表でもLBは最重要ポジションの一つ。この3人が代表のLB争いに加わる日は近いでしょう。

② チーム順位に関わらず結果を出している

12位、6位、10位——3人のチーム順位はいずれも上位ではありません。しかし、個人としてはリーグトップクラスの数字を残している。「強いチームにいるから活躍できる」のではなく、「どんな環境でも結果を出せる」選手たち。これは代表チームでも求められる資質です。

③ LA五輪世代

2028年のロサンゼルス五輪まであと2年。この3人は、その時点で24〜26歳前後。選手として最も脂が乗る年齢でLA五輪を迎えることになります。

日本男子ハンドボール代表がLA五輪出場を果たしたとき、この3人のうち何人がコートに立っているか。今シーズンの活躍は、その未来への布石です。

プレーオフで彼らが「いない」ということ

ここから先は筆者の分析を含みます。

野尻選手(12位)と山﨑選手(10位)のチームは、プレーオフに進出できません。藤川選手(6位)のチームもボーダーライン上で、進出できるかは最終節次第です。

つまり、リーグの得点王争いを繰り広げている選手たちが、プレーオフという最大の舞台にいない可能性が高い

これはリーグの構造的な問題でもあります。個人の力がどれほど突出していても、チーム全体の力が伴わなければ上位には行けない。しかし逆に言えば、彼らが上位チームに移籍したとき、あるいは彼らの周りにチームメイトが揃ったとき、リーグの勢力図は一変する可能性があります。

だからこそ、レギュラーシーズンの「今」を記録しておきたい。プレーオフの華やかさの陰で、彼らが積み上げた数字と経験は、確実にLA五輪への道に繋がっています。


まとめ

野尻雄偉選手、藤川翔大選手、山﨑洸平選手。

3人とも、チーム順位だけを見れば「目立たない」存在かもしれません。しかし、個人スタッツを見れば、彼らがリーグH男子の「今」を代表する選手であることは明らかです。

2028年のLA五輪で、この3人の名前を覚えていてください。「あのとき、リーグHで得点王争いをしていた若手が、今オリンピックのコートに立っている」——そんな未来が、すぐそこまで来ています。

次回は、いよいよプレーオフの展望記事。男女それぞれの対戦カードと、勝敗を分けるポイントを予想します。


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出典

  • League H 公式 順位表・個人成績: https://leagueh.jp/rankings/
  • 琉球コラソン 公式: https://corazon.jp/
  • 沖縄タイムス(野尻選手関連報道)
  • トヨタ自動車東日本レガロッソ宮城 公式
  • 安芸高田わくながハンドボールクラブ 公式